【エッセイ】猫飼いさんお悩み講座・第三回「キーボード踏み」

【エッセイ】猫飼いさんお悩み講座・第三回「キーボード踏み」

By 室長


どうも皆さん、こんにちニャン

今回は私、キーボ・ドゥ・フミンスキーが、猫飼いさんたちのお悩みにお答えしていきます。

本日は宮城県にお住まいのトリプル猫飼い、「肝吸いよりだんぜん猫吸い派」さんから、こんなお悩みが届きました。

「うちの猫ちゃんが仕事中、キーボードを踏んできてすっごくすっごく困ってます❤️

……

……

ええと。

そうですね。踏みますね、猫。キーボード。

それもなぜか仕事中に。

作業は中断するし、場合によってはメールが「ああああああああああ」みたいなことになったまま送信され、お得意さまの怒りを買うこともある。

はい。深刻なお悩みです。
ですが、その前にひとつ確認を。

肝吸いよりだんぜん猫吸い派さん。
そもそもあなた、本当に”悩んで“いますか?

「猫ちゃん」という表記。「すっごく」という促音、およびその畳みかけ。そして最後のハートマーク。どうも切迫感が伝わってこない。むしろ「猫に困らされている”かわいそうな“私をもっともっと見てほしい」という欲求のうねりを感じます。

……承認欲求とは厄介なものです。

いや、私にだってありますよ。承認欲求。

エッサヌエスでは猫をだしにしてウケも狙いますしね。会心の一作に「いいね!」が三つしかつかなければ、世間の見る目のなさについて一晩くらい考えます。自分の写真の何が悪かったのか、チャッピーに聞いたりもします。

承認欲求そのものが悪いわけではありません。

ただ、ここは真剣な相談の場です。
そこへ、ただ枯れない泉のごときあなたの承認欲求を満たすためだけに、私の大切な時間が使われるのだとしたら、それは実に悲しい。今日が日曜の夜ならキレるかもしれません。

とはいえ、肝吸いよりだんぜん猫吸い派さん。
あなたが本当に深刻に悩んでいる可能性もありますよね。ただ、こういう文章を書くのがクセだというだけで。たかがハートマーク一個で人を裁いてはいけません。

いや、失礼。
さて、キーボードでしたね。

猫がキーボードを踏みたがる理由はいろいろあります。先人たちの記録も数多く残されていますが、最大公約数的な答えを求めるとすれば、それがニンゲンの目の前にあり、かつそれを踏むとニンゲンがものすごい勢いで反応するからではないでしょうか。

「こら、チビ太、今仕事中!」
「うわっ、デスク乗るな、踏むな!」
「待ってええ、それまだ保存してないいいいいいい!」

といったように、キーボードをちょいと踏んだだけでニンゲンが奇声を上げ、頭を抱えたり両手をバタバタさせたりして慌てふためきます。たとえば壁のスイッチを押しても、せいぜい電気がついたり消えたりするだけです。ところがキーボードを押すと、ニンゲンが実に愉快な反応を見せてくれます。しかもバリエーションは無限です。

猫からすれば、これはかなり高性能です。
つまり猫にとって、キーボードは入力装置ではありません。人間操作ボタンです。
あなたの猫はキーボードを押しているのではなく、あなたを押しているのです。

正直なところ、絶対確実な対策は存在しません。

ニンゲンがどれだけ頭を悩ませようが、猫はキーボードに乗ります。
そしてニンゲンが慌て、猫が面白がり、またキーボードに乗り、またニンゲンが慌てる……

こうして完成した永久機関は決して止まりません
猫がいる限り、キーボードは踏まれ続けます。

話を戻しましょう。

猫は、キーボードそのものに特別な興味があるわけではありません。あなたが今いちばん大事そうに扱っている“何か“の間に割って入って、「そんなものはいいからオレを見ろ」と言っているのです。

考えてみれば、これも立派な承認欲求です。
ただし猫はそれを隠しません。お悩みにかこつけることもなければ、ハートマークでお茶を濁すこともない。

ただ、見てほしいから踏む。
それだけです。

承認欲求の扱いに手を焼き、それに飲み込まれ、己を失っていくニンゲンより、よほど潔い。私もかくありたいものです。

猫は、あなたの大切な仕事や作業より、自分のほうが大切だということを最初から一度も疑っていません。そこまで迷いなく自分を必要としてくれる存在が、家の中にいつも、あなたのすぐそばにいるんです。そう考えれば、「ああああああ」と書かれたメールのひとつやふたつ、送ってやろうじゃないですか。

まあ、そのせいで失った仕事は戻ってきませんが。

ではまた次回! シャツのほうもよろしく!

ばいにゃん!

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