【エッセイ】猫飼いさんお悩み講座・第一回「猫のげこり」
By 室長
どうも皆さん、こんにちニャン!
本日から私、毛玉吐きの助が、世の猫飼いさんたちのお悩みにフランクにお答えしていきたいと思います。
いかなる星の巡り合わせか、保護猫活動をしている相方を砂かぶり席で二十年以上眺めてきた結果、ずいぶんたくさんの猫と道が交わってきました。いや、本当に多かった。今後二十回先の輪廻転生ぶんまで、交わってきた気がします。
なぜなのか。
以前は考えたこともありました。が、今はもう考えません。人間は考える葦だそうですが、ときにはただの葦でいたほうが健やかに暮らせます。
さて、第一回目のお悩みは「猫のげこり」です。
結論から言いましょう。
猫はげこります。
新品のカーペットにげこる。お気に入りの羽毛布団にげこる。ノートパソコンの上にげこる。キャットタワーの最上段から、下々のニンゲンたちに向けて壮大なげこりシャワーをぶちまける。そのバリエーションたるや枚挙にいとまがありません。猫の数だけ、げこりがある。それが宇宙の真理です。
では、どうすればよいのか。
簡単です。げこらせましょう。
そもそも止めるのは無理なのです。
皆さんだって飲みすぎて吐きそうなとき、「今日は新品のカーペット敷いたばかりっすから!」と胃に堪えてもらうことはできないでしょう。それと同じです。猫のげこりは自然現象です。地震や雷のたぐいです。そうした大いなる力の前ではニンゲンはなすすべがなく、起きたら最後、ただ受け止めるしかありません。
ぶざまでけっこう。椅子にけつまずいても、パンツが引き裂けてもいい。これはオリンピックではありません。美しくキャッチする必要などないのです。
とにかく掴め。そのゲロを。
そこで役に立つのが、専用の器です。
うちでは近所の古道具市で買ったウッドボウル(二百円)を使っています。
(こんなやつ)
これが実にいい。平たい皿だとゲロが飛び散る。浅すぎるとゲロが飛び出す。いろいろ試しては失敗し、山のようなティッシュペーパーを無駄にしては学び、ようやく辿り着いたのがこのボウルでした。軽いのもポイントが高いです。誰が作ったのか知りませんが、まさかこのボウルが猫のゲロを受け止めるために愛用されるとは思わなかったでしょう。
そして大切なのは、ここに何も入れないことです。
間違っても飴ちゃんなどを常備してはいけません。
「やばい、猫がげこりそう!」
「そうだ、あの器!」
「うげえ、飴ちゃん入ってるううう!」
そうやって飴ちゃんを外へかき出している三秒間に、嗚呼、猫はもう吐いています。わずか三秒の遅れのせいで、あなたのおしゃれ勝負服はゲロまみれとなり、今夜のファイア族が集う合コンには「負け犬」とプリントされたトレーナー姿で出席することになります。
(だめな例。ゲロまみれの人生確定です)
人生とは、こうした三秒の積み重ねです。
私は長年フリーで翻訳の仕事をしておりますが、時間とはほぼ金です。ゲロを器で受け止めれば、カーペットを掃除する時間が浮きます。そのぶん働けます。
そう。ゲロをキャッチすることは稼ぐことなのです。
勤め人の方だって同じです。そうして浮いた五分で本を読んでもいい。メールを返してもいい。冷蔵庫を開けて、何もないことを確認して閉めてもいい。窓の外を見て「あの雲、ちょっと犬っぽいな」と思うだけでもいい。
私はできれば雲を見たい。
世の中には、こうした大切な時間を無邪気にぶんどる人がいます。「ちょっとだけいい?」と言って三十分しゃべりまくる人。一度説明したことを、翌週また最初から聞いてくる人。言われてないことまで“善意から”やって、逆にこっちの仕事を増やしてしまう人。
こういう人に会うと、私は猫のゲロを思い出します。ゲロなら拭けば終わります。人間の場合、拭いてもまた来ます。魔物です。地獄から来ています。距離を取りましょう。
再び、閑話休題。
猫が「ケッ、ケッ、ケッ」と始めたら、そこからは時間との勝負です。しかも猫はなぜか、フローリングなどの“吐かれやすい”場所から、わざわざふかふかのラグや布団の上へ移動しようとします。
「そこでいいのに、なぜ動く!」
「頼む、そこでやってくれえええ!」
というこちらの切なる願いを振り切り、猫は見えないセンサーに導かれて歩きます。
だからこそ器は、すぐ手に取れる場所へ置いておくのです。戸棚の奥でも押し入れの中でもいけません。「来客時の見栄えががが」と世間体を気にして隠してもいけません。来客は毎日来ませんが、猫は毎日います。この優先順位を間違えると死にます。
というわけで、今すぐ猫のげこり専用の器をひとつ用意してください。
一回のげこりにつき、節約できるのがたった数分でも、積もり積もればけっこうな時間になります。
ゲロを受け止め、時間を効率よく使って、より充実した人生を歩みましょう。
そして浮いた時間で働いてお金を稼いだら、よければうちのシャツを買ってください。一応シャツ屋なので。こちらのシャツなんて人気ですよ。
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なお、吐く回数が急に増えた、血が混じる、元気や食欲がないなど、猫にいつもと違う様子がある場合は、器がどうこう言っている場合ではありません。動物病院へ直行しましょう。
ではまた次回。
ばいにゃん!