【エッセイ】予期せぬ心変わり

【エッセイ】予期せぬ心変わり

By 室長


我が家の調理担当は、主に私だ。

といっても、届いた食材をレシピどおりに切ったり炒めたりするだけなので、大したことはしていない。が、そのくらいの作業が気分転換にはちょうどよくもある。

料理していて楽なのは、相方が何でも「うまい」と言うことだ。
本当に何でもそう言う。テンプレのように。

焼きそばでも「うまい」。
グラタンでも「うまい」。
塩を入れ忘れても「うまい」。
レシピを読み間違えても「うまい」。

もはや輪ゴムを炒めて出しても普通に「うまい」と言いそうだが、まだ試したことはない。ちなみに昔、某野球場で食べたラーメンは本当に輪ゴムのような味がして吐いた。それまでに輪ゴムを食べたことは一度もなかったが、あのときはそんな味に思えた。

そんな相方にも、食に関するこだわりがひとつだけある。
「ぬるいものが好き」という謎の嗜好だ。

こちらとしては、できれば熱々のうちに食べてほしい。だが、仮にできたてを出しても、わざわざしばらく放置して冷ましてから口に運ぶ。料理する側の気持ちなどまるで意に介さない。あとそう、食べ残したうどんにラップをかけて保存しようとする。伸びるだろそれ。加えて、賞味期限に対してやたらと強気で、「これ、ちょっと古そうだけどいける?」と訊くと、だいたい「いける」と答えるので当てにならない。

とにかくまあ、食に対するハードルが地面すれすれの低空飛行なので、ときどき逆に不安になる。だが、文句を言わないという一点においては最高の客だ。

ところが先日、その相方からテンプレ以外のセリフが飛び出した。

え、またこれ?

一瞬、耳を疑う。

確かに、ここ四日間で三回目だ。「きのことほうれん草のクリームパスタ」を出すのは。自分でもうっすら「多すぎじゃね?」とは思ったよ、うん。けど、自分は四日間で三回目でも美味しく食べたし、何よりパスタは相方の一番の好物だ。四日で三回くらいなら、いつものごとく余裕の顔で「うまい」と言って食うだろうと踏んでいた。

ところが、急に自我に目覚めたアンドロイドのように意思表示をしてきた。

「え、だめなの?」
「いや、よく出るから」
「パスタ好きじゃん」
「好き」
「じゃあいいじゃん」
四日で三回はない

ないのか。
四日で三回は。
どんなにパスタ好きでも。

私は少し肩を落とし、「いくらパスタ好きでも四日で三回同じパスタを出されると、急に自我に目覚めたアンドロイドみたいに嫌がる」と、心のメモ帳に書き留めた。

「でも食う?」
「食う」

なんだよ、結局食うのか。
粉チーズが大量に減っていた。

(了)

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